心臓振盪が起きるメカニズムとしては 前胸部への衝撃(比較的軽度のものも含む)→重症不整脈(心停止を含む)の誘発→意識障害・突然死 という流れ提唱されています。衝撃により誘発される不整脈は、心臓や骨に構造的損傷が起きたために生じるものではなく、衝撃のエネルギーが心臓自体に伝わって起きるものであるため、外から見ただけでは何が起きているのかわかりません。 不整脈は心室細動(AEDのコラムも参考にして下さい)という致死的不整脈が多く、その他完全房室ブロックという心停止を来す不整脈も起きると考えられています。衝撃が不整脈を起こすメカニズムについては、人を使って再現実験を行うことはできないので、多くは動物実験により得られた知見です。
ブタをモデルにした誘発実験ではブタの胸に野球の球と同じサイズ、同じ重量の木製ボールをぶつけるという方法で行われました。その結果、いろいろな形の不整脈が誘発されることが確認されましたが、興味深いことに、衝撃の強さよりも、ぶつかる“タイミング”が重要だったのです。細かい話になりますが、われわれの心電図はP波、QRS波、T波という三つのコンポーネントから成り立っています。
実験によると、ちょうどT波のピークに近接したタイミングで衝撃が加わると、前記の致死的不整脈である“心室細動”が高率に誘発されました。 また、QRS波に一致して衝撃が加わると、完全房室ブロックという心停止につながる不整脈が誘発されたのです。これらとズレたタイミングで衝撃が加わっても、重症不整脈は誘発されませんでした。この実験から、人間においても胸部に衝撃が加わるタイミングが重要であり、必ずしも球が胸に当ったからといって重症不整脈が誘発されるわけではないことがわかります。ただ、本人にも、まわりの人にも、心電図がどのような時相(タイミング)にある時に衝撃が加わったかを知ることはできません。 肝心なのは、このような病態があることを理解し、事故が発生した状況をきちんと確認した上で適切な対処を行うことです。
次回は心臓振盪が起きた時の対処や予防策について解説します。
経歴 1987年 慶應義塾大学医学部卒 同内科、老年科を経て1995年より現職 生活習慣病や動脈硬化危険因子に対する運動療法が専門。