最近、健康にかかわる雑誌やテレビ番組で“メタボリックシンドローム"ということばをよく耳にします。なにやら新しい病気が発見されたかのような錯覚におちいる奇怪な呼び名ですが、メタボリックシンドロームの概念自体は決して新しいものではなく、歴史的には約20年来、肥満や糖尿病/高脂血症を専門とする学者の間で議論されて来たものでした。
そもそも、この疾患の特徴は同一個人に複数の危険因子、すなわち、高血圧、糖尿病、高脂血症などが合併することで、1988年に米国スタンフォード大学のリーベン教授がはじめてその概念を発表しました。しかし、この時リーベン教授が使った名前はメタボリックシンドロームではなく“シンドロームX (エックス)"。その後も、いろいろな学者がそれぞれ独自の呼称を提唱しました。これは病因論の解釈の若干の違いから生じたものと言えますが、呼称が統一されなかったことで、この症候群の考え方の一般への普及が遅れた感は否めません。
このような背景を経て、1999年、WHOが診断基準を発表、同時に名称を“メタボリックシンドローム"としました。これを契機に日本を含めいくつかの学会組織から独自の診断基準が提唱されましたが、呼称は“メタボリックシンドローム"で統一されるようになりました。さて、この“メタボリックシンドローム"、いったいどのような症候群なのでしょうか?以前より、肥満者では、高血圧、糖尿病、高脂血症など複数の病気(動脈硬化の危険因子)が一個人に重複発生することは経験的に分っていました。しかし、これは単なる偶発的合併であり、基本的には各々は独立した疾患であるという考えが主流でした。しかし、リベーン教授はこれを偶発的合併とは考えず、インスリン抵抗性という共通の基盤が存在し、それが原因となって複数の疾患の同時多発を招き、これにより動脈硬化のリスクが相乗的に高まるという考えを発表したのです。当時、この発想は画期的なもので、一躍、医学会の注目を集めました。それから間もなく、大阪大学の松澤教授は内臓脂肪蓄積が動脈硬化危険因子重積の根本的原因であるという説を発表、内臓に脂肪がたまることの危険を指摘し、これが今日の日本におけるメタボリックシンドローム診断基準の源流となりました。
我が国における診断基準は必須条件として ウエスト周囲径の増大(男性85cm以上、女性90cm以上)が挙げれられ(これは内臓脂肪のつき過ぎを意味します)、これに加え、
1) 脂質代謝異常(中性脂肪値≧150mgdlまた/かつHDLコレステロール<40mg/dl) 2) 高血圧(収縮期血圧≧130mmHgまたは/かつ拡張期血圧≧85mmHg) 3) 空腹時血糖≧110mg/dl
のうち2個以上を認める症例をメタボリックシンドロームと呼ぶことにしました。次回以降のコラムで、メタボリックシンドロームについてさらに詳しく解説してゆきます。
経歴 1987年 慶應義塾大学医学部卒 同内科、老年科を経て1995年より現職 生活習慣病や動脈硬化危険因子に対する運動療法が専門。